「HRBP(HRビジネスパートナー)」とは何か

自治体人事課が押さえておきたい「戦略人事」のキーワード
人事に関わる仕事をしていると、近年「HRBP」という言葉を目にする機会が増えてきたのではないでしょうか。民間企業の求人票や人事系のセミナー、ビジネス雑誌などで頻繁に登場するこの言葉、正確に説明できるかどうか、少し自信がないという方もいるかもしれません。
HRBPは「Human Resource Business Partner」の略で、日本語では「HRビジネスパートナー」と訳されます。人事部門における新しい役割のあり方として、グローバルでは1990年代から普及し、国内でも2010年代以降に急速に広まりました。
「民間企業の話だから自治体には関係ない」と思われるかもしれません。しかし、行政の人事担当者にとっても、HRBPという概念を理解しておくことには意義があります。なぜなら、この考え方は「人事部門がどうあるべきか」という本質的な問いに答えるものであり、自治体が直面する組織課題とも深く関係しているからです。
本稿では、HRBPとは何かをわかりやすく解説します。
1.HRBPが生まれた背景――「デイブ・ウルリッチ」のHRモデル
HRBPという概念を語るうえで欠かせないのが、アメリカのミシガン大学教授デイブ・ウルリッチ(Dave Ulrich)です。彼は1997年に著書『Human Resource Champions』の中で、人事部門が担うべき4つの役割を提唱しました。
・戦略的パートナー(Strategic Partner):経営戦略の実現を人材面から支援する
・変革のエージェント(Change Agent):組織変革を推進し、変化に対応できる組織をつくる
・管理の専門家(Administrative Expert):人事業務を効率的・正確に行う
・従業員の擁護者(Employee Champion):職員の声を経営に伝え、働きやすい環境をつくる
この4つの役割モデルが、後に「HRBPモデル」として実務に取り入れられていきます。特に「戦略的パートナー」と「変革のエージェント」の機能を事業部門に密着して担う担当者のことを、HRBPと呼ぶようになりました。
当時の人事部門は、給与計算・採用手続き・研修の手配といった管理・運営業務が中心でした。ウルリッチはそれに対して、「人事は経営のパートナーとしてもっと能動的な役割を担うべきだ」と訴えました。この主張は、人事という職種の自己認識を根本から変えるインパクトを持ち、世界中の人事部門に影響を与えました。
2.人事部門の3つの機能――CoE・シェアードサービス・HRBP
ウルリッチのモデルをもとに、多くの大企業では人事部門を3つの機能に分けて設計するようになりました。HRBPを正しく理解するには、この3つの機能の違いと関係性を押さえておくことが重要です。
① CoE(Center of Excellence) 専門知識の集約機能
CoEとは、採用・育成・評価・報酬・組織開発など、人事の各専門領域における「知識・方針・制度の設計」を担う機能です。「人事の頭脳」とも呼ばれ、組織全体に適用される人材戦略の方向性をつくる役割を果たします。
たとえば、新しい評価制度を設計したり、研修プログラムの体系を整えたり、採用方針を策定したりするのがCoEの仕事です。専門性が高く、組織全体に対して方針を示す立場であるため、少数精鋭で機能することが多いです。
自治体に置き換えると、人材育成基本方針の策定、人事評価制度の設計・改定、研修体系の企画・立案などを担う機能がCoEに近い役割といえます。
② シェアードサービス 定型業務の効率化機能
シェアードサービスとは、給与計算・社会保険手続き・勤怠管理・入退社手続きなど、人事部門が扱う定型的な管理業務を集約・効率化する機能です。「人事のオペレーション部門」とも呼ばれます。
大企業では、複数の事業部門や子会社が別々に行っていた労務管理業務を一箇所に集め、標準化・システム化することでコストを削減します。正確性・スピード・コスト効率が求められる領域であり、近年ではHR Techの活用によって自動化が進んでいます。
自治体の人事課が日々行っている給与支給・手当認定・各種届出の受付・福利厚生の管理といった業務は、まさにこのシェアードサービスにあたる機能です。制度に基づいた正確な運用が求められる、人事部門の基盤をなす重要な役割です。
③ HRBP――現場と経営をつなぐ戦略機能
HRBPは、CoEが設計した制度・方針を現場に実装し、現場の課題を人材・組織の面から解決するパートナーです。特定の部門や事業に深く関わり、その部門長や管理職と定期的に対話しながら、採用・配置・育成・組織開発などの施策を提案・推進します。
CoEが「全社共通の制度をつくる人」、シェアードサービスが「制度に基づいた業務を正確に動かす人」だとすれば、HRBPは「制度と現場をつなぎ、組織の変化を推進する人」です。この3つが揃うことで、人事部門が戦略・運営・現場対応の三位一体で機能します。
| CoE | シェアードサービス | HRBP | |
| 主な役割 | 制度・方針の設計 | 定型業務の正確な運用 | 現場課題の解決・支援 |
| キーワード | 専門性・戦略立案 | 効率性・正確性 | 対話・提案・変革 |
| 自治体での例 | 育成方針・評価制度の設計 | 給与・勤怠・各種手続き | 現場ヒアリング・人材提案 |
3.なぜ今、HRBPが注目されているのか
HRBPという概念自体は20年以上前から存在しますが、近年になってとりわけ注目が高まっているのはなぜでしょうか。その背景には、組織と人材を取り巻く環境の急激な変化があります。
「人的資本経営」への注目
組織課題の複雑化
HR Techの普及
4.自治体人事課との関わり
自治体の人事課は、民間企業のような明確な機能分担がなく、CoE・シェアードサービス・HRBPのすべてを一つの部署が担っているケースがほとんどです。法令・条例に基づく制度運用が基本であり、公平性・透明性が強く求められる点も、民間とは大きく異なります。
しかしながら、この3つの機能の考え方を知ることは、自治体の人事担当者にとっても有益です。「自分たちの仕事のどこにどれくらいの時間とリソースを使っているか」を整理するフレームワークとして活用できるからです。
多くの自治体では、シェアードサービス的な業務(給与・勤怠・各種手続き)に多くの時間が費やされており、CoE的な機能(制度設計・育成方針の立案)やHRBP的な機能(現場との対話・組織課題への能動的な関与)に割けるリソースが限られているのが現実ではないでしょうか。
3つの機能を意識的に区別し、それぞれに適切なリソースを配分することを考えること——それが、自治体人事課にとっての「HRBPという概念を学ぶ実践的な意義」といえます。







