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にゃんこ堂に見るマーケティング戦略
神保町の交差点のほど近く、小さいながらも世間の耳目を集める本屋さんがあります。
「猫本専門 神保町にゃんこ堂」です。
元々は「姉川書店」といい、新刊本を扱うごく普通の本屋さんでしたが、経営危機を経て現在の姿へと転身し、様々なメディアに取り上げられる有名店となっています。
出版不況やAmazon等の通販業者、電子書籍の登場で、「町の本屋さん」の経営環境は厳しいものとなっています。
そんな厳しい経営環境の中でにゃんこ堂さんが成功した理由を、マーケティングの観点から考えてみたいと思います
マーケティングって何?
そもそも、マーケティングとはなんぞや。知ってるようで、知らない言葉です。
いろいろな本で、いろいろな人が、いろいろな説を提唱しています。
ここではシンプルに、「マーケティングは売れる・儲かる仕組みを考えること」とします。
そして、そのマーケティング戦略で非常に重要になる切り口が、「T+4P」です。
T+4P、いきなり耳慣れない言葉の登場かもしれません。
これは、マーケティング戦略を考える際のフレームワークで、
Target(ターゲット)
Product(プロダクト・商品)
Price(プライス・価格)
Place(プレイス・販路)
Promotion(プロモーション・販促)
の頭文字をとっています。
「売れる・儲かる仕組みを考えること」とは、具体的には、「ターゲットを絞り込み、それに適した商品・価格・販路・販促を考えること」なのです。
言葉にすれば簡単ですが、きちんとやろうとすると大変です。
にゃんこ堂さんはこれらの各要素にどのような工夫を凝らしているのでしょうか。
にゃんこ堂さんのT+4P分析
【ターゲット】
まず、「猫本」をキーワードにターゲットを「猫好き」に絞り込んでいます。
ここがマーケティングでは超重要ポイントです。
小さな書店では本を置けるスペースも人員も限られています。「世の中の人みんなに」などと言っていては、大規模書店やネット通販と真正面からぶつかり合ってつぶされてしまいます。
ターゲットを絞ってそこに経営資源を集中することで、特色を発揮できるようになるんですね。
にゃんこ堂さんのニッチすぎず需要が高そうな「猫好き」という絞り方は絶妙と言えますね。いくら絞ると言っても、そこに市場がなければ商売になりません。
専門化によって商圏が広がる、つまり遠方からでもお客さんが来てくれる、という効果も見込めます。
【商品】
「猫好き」に刺さるこだわりの猫本を主力商品として豊富に品揃えている点が素晴らしいですね。
写真集にとどまらず、絵本や一般書、コミックなど、ありとあらゆる猫本が品揃えられ、その商品ラインナップの充実度には圧倒されます。
その他にも、オリジナルの猫グッズを関連商品として取りそろえており、本を買いに来たお客さんの「ついで買い」で客単価が向上します。
さらには、グッズ目当てに来店する人もいるでしょう。つまり、客数向上にもなっていますね。
これらの施策で、同じ売り場面積でも売上高は相当違ってくるでしょう。棚卸資産や固定資産の投資効率がかなり高まっているのではないでしょうか。
【価格】
書籍には再販売価格維持制度(出版社が定価を決定し、小売り書店等が定価で販売する)があるので、なかなか価格戦略は難しいかもしれません。
また一般的に、中小企業では価格戦略はあまり採らない方がいいでしょう。
薄利多売で生き残れるのは大企業だけです。
【販路】
まず神保町交差点のすぐそばに路面店があります。立地としては最高ですね。
ただ、その立地の良さに甘えないところがさすがです。
にゃんこ堂さんでは、オリジナルの猫グッズを販売する自社サイトを設けています。
更に、グッズを取り扱う小売店の募集もしています。
販売チャネルを多く設けつつ、出店費用がかからないため投資効率が良いですね。
積極性も素晴らしいと思います。
ターゲット絞り込みからくる商品力の高さの為せる業ではないでしょうか。
【販促】
にゃんこ堂は販促もチャレンジ精神旺盛です。
まず目を引くのが店内の書棚です。
本の表紙がお客さんに見えるように並べ、他店と一線を画した非常に魅力的な店内風景を演出していますね。
これにより、商品の見やすさ、買いやすさが向上し、お客さんに利便性という価値の提供も行っています。
Twitter、Facebook等のSNSを利用した告知や顧客との交流(そして顧客同士の交流の促進)は、顧客関係性向上→ロイヤルティ(顧客愛顧)向上→固定客化が見込める施策ですね。
そのほかにも、店内イベント、地域イベントへの参加、オリジナルイラストのブックカバーなどのノベルティの提供など、あの手この手の販促活動を行っています。
1つひとつは地味ですが、コストはそれほど大きくありませんし、複合的に行うことでお店のブランド力も向上し、パブリシティ(メディアによる報道)や口コミを誘発しています。非常に素晴らしい販促戦略だと思います。
やはりここでも、ターゲット絞り込みが活きています。
「単なる新刊書店」では、なかなかこうはいきません。
さて、簡単に(とは言えないくらい長いですが)にゃんこ堂さんのマーケティング戦略をT+4Pの切り口で考えてみました。
そのうえで感じることは、見事に多面的な施策を打ち、それらが有機的に連動していることです。
各施策の工夫も大事なのですが、マーケティングの要素(T+4P)をモレなく適切に押さえている点が素晴らしいです。
モレがあると相乗効果が生まれませんし、取りこぼしも発生しますからね。
これだけの施策を行うのは、並々ならぬ経営努力と言えるでしょう。
経営者の方は、きっと脳にたくさん汗して色々と試行錯誤しながら頑張られたのだと思います。
にゃんこ堂さんの成功にはしっかりとした根拠があることがよくわかりますね。
商売に絶対はないけれど
どんな商売にも、「こうすれば必ず成功する!」という必勝法はありません。
マーケティング戦略の考え方も、「これさえ押さえておけば問題ない」というものではなく、商売について考えていく際の道しるべのようなものです。
ただ、その道しるべがあるかないかでは、雲泥の差です。
どんな努力も、正しい方向性で行わなければただ虚しく空振りするのみです。
正しい方向性で不断の努力を行い、さらに少しの運があってはじめて商売は成功するんですね。
そんな厳しい道のりを小さな体一つで乗り越えてきたにゃんこ堂さん。
そういう視点で見てみると、「猫がカワイイ」だけにとどまらない、魅力溢れる企業である事に気づけるのではないでしょうか。
(S)